ブラガンチーノ:渋谷の路地裏から世界を揺らす音の錬金術師

Published on March 22, 2026

人物速写

ブラガンチーノ:渋谷の路地裏から世界を揺らす音の錬金術師

午前3時の渋谷。主要なクラブは閉店した後、ある細い路地裏の、看板もない小さなバーにだけ灯りがともっている。中からは、ブラジルの熱帯雨林を思わせる打楽器のリズムと、最新のエレクトロニックビートが融合した、どこにも分類できない音楽が漏れ聞こえる。DJブースに立つ一人の男——眼鏡の奥の目は鋭く、髪は少し寝癖がついているが、レコードを操る手元は神がかったように滑らかだ。客はわずか十数人。しかし彼らは、まるで秘密の儀式に参加しているかのように、熱狂的に揺れている。ここが、彼の“実験室”だ。

人物背景

本名を伏せて「ブラガンチーノ」として知られるこの男は、日本の音楽シーンにおいて、いわば“合法的なトラブルメーカー”である。大阪で生まれ、幼少期からクラシックピアノと祖母が聴いていたブラジルのMPB(ポピュラー音楽)に囲まれて育った。彼の音楽的アイデンティティは、最初から二重構造だったらしい。「学校のピアノ発表会でショパンを弾いた帰り道、iPodで聴いてたのはサンバのビートだったんですよ。頭の中が常に文化のチャンポン状態で、それが普通だと思ってました」と、本人は笑って振り返る。

音楽専門学校を卒業後、ごく普通のサラリーマンとして広告制作会社に就職。しかし、昼間はCMのジングルを作り、夜と週末は自分の“変な音”をこっそり作り続ける二重生活に、ある日ピリオドを打った。「上司に『君の作るこの謎のテープ、会社の仕事には向いてないが、どこかで売れるかもな』と言われたのが、辞表を書く最後の後押しになりました」。以来、彼は“音の錬金術師”としての道を歩み始める。ブラジルの伝統音楽と、テクノ、ヒップホップ、さらには日本の歌謡曲の断片までを“錬金釜”に入れ、独自のサウンドを生成する。レーベルには「ジャンル:ブラガンチーノ」とだけ登録されているという。

关键时刻

転機は、SNSでも大きな話題になった、あの「駅前フラッシュモブ」だった。ある日、彼は地元の音楽仲間やダンサーを数十人集め、夕方の新宿駅東口広場で突然パフォーマンスを開始した。流したのは、ブラジルの伝統的なマラカトゥのリズムを、渋谷系のシンセサウンドでデジタルリミックスした楽曲。通勤客たちは一瞬、何事かと足を止めた。「警察に止められるかと思いましたよ」と彼はウインクする。「でも、おじいちゃんが手拍子してくれて、子供が踊り出して。その瞬間、『これだ』って思ったんです。音楽って、クラブやフェスのためだけにあるんじゃない。日常をちょっとだけ非日常に変える“仕掛け”になれるんだって」。

この事件(本人は「計画的行動」と呼ぶ)をきっかけに、彼の活動は一気に広がった。小さなライブハウスでの定期公演は常に満員御礼。そしてついに、ブラジル・サンパウロの有名レーベルからオファーが舞い込む。彼の音楽が、逆輸入のようにブラジルで評価されたのだ。「現地のプロデューサーに『君の音楽は、ブラジルの過去と未来を同時に聴いているようだ』と言われた時は、鳥肌が立ちました。祖母に聴かせてもらったあのレコードへの、一番の恩返しかもしれない」。現在では、日本とブラジルを往復しながら、両国の若いアーティストを結びつけるプロジェクトも手がけている。

ブラガンチーノの魅力は、その“軽妙な職人気質”にある。スタジオでは完璧主義者だが、人前では一切難しい話をしない。「音楽の話は、酒の肴には向かないんですよ。それより、このミックス、カクテルみたいでしょ? 飲みやすいでしょ?」が口癖だ。彼の作品は、一見無造作に素材を混ぜ合わせたように聞こえながら、実は計算され尽くした“おいしさ”がある。ブラガンチーノという存在は、音楽ジャンルが細分化され、時に排他的になりがちな現代のシーンに、「ねえ、もっと遊ぼうよ」と囁きかける、ひょうきんな革命家なのである。路地裏の小さな灯りは、やがてもっと大きな場所を照らし始めている——彼の“錬金術”は、まだまだ完成していない。

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